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第1回 明治神宮外苑教室 (東京)

野球教室レポート ~三井ゴールデン・グラブ賞受賞プロ野球OBが少年野球指導者を指導~

第1回三井ゴールデン・グラブ野球教室が開催

3月20日(土)、明治神宮外苑室内球技場・コブシ球場にて「三井ゴールデン・グラブ野球教室」がはじめて開催された。当日の受講者は73名。主に少年野球の指導者たちだ。過去に三井ゴールデン・グラブ賞を受賞した大矢明彦氏、水上善雄氏、屋鋪要氏、阿波野秀幸氏ら元プロ野球選手と、トレーナーの吉田直人氏を講師に迎えた、この野球教室の様子をレポートする。

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はじめに、現役のプロ野球選手や斎藤佑樹投手(早稲田大学)のトレーニング実績もある吉田直人氏から、けがやトレーニングについてのレクチャー。直接的な指導方法ではなく、基礎となる知識の提供を念頭においたコーチングで、“なぜ”を深く掘り下げてくれる。例えばしゃがんだ姿勢をとろうとする時、人はヒザから曲げがちだ。これをお尻の筋肉から使うようにするとけがの防止になる。

大きい筋肉から動かすのがよいのだ。野球選手のお尻が大きいのは、正しい使い方ができているからだそうだ。吉田氏自身も投手出身で、肩を壊した経験があるという。その経験からけがに対する予防意識の高さがうかがえた。

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天気も良かったので屋外のコブシ球場に移動、屋鋪要氏による走塁講義が始まった。屋鋪氏はユーモアを交えて走塁のコツを伝授。ベースを駆け抜ける足は右か左かという問いかけから、型にはまった野球指導を鵜呑みにする必要はないと訴えた。ベースの内側4分の1を踏み、体重を内側にかけて走れば、踏む足は左右どちらでもよい。センター前ヒットの場合は、ホームに背中を向けるようにして二塁をうかがうなど、実践に則した指導で非常に合理性を感じた。帰塁指導の際には、屋鋪氏が実際に手から滑り込んでお手本を見せるなど、終始熱い指導で走塁のノウハウを伝えた。

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投げ方の基本では、阿波野秀幸氏がボールの握り方から利き手を振り切る動作まで、順を追って解説。とくに投げる時の腕の角度については、わき(胴と腕)は90度以上、ヒジは90度以内と表現し、受講者に実際投げてもらい、改善すべき点を指摘した。プロのコーチも経験した方が、参加指導者にていねいに教えている。それだけで舞い上がってしまう。

昼食をはさみ、3つのポジションに分かれた指導となる。当日の指導の中でもっとも技術的に高度な内容だった。

内野担当の水上善雄氏は、数多くの指導経験をもとに、誰にでも分かりやすく、かつ説得力ある話し方での指導。投手以外のプレーヤーが投球を行う場合、そのボールを捕るのは自分のチームの人間。だから捕りやすいボールを投げなくてはいけない。その考えから逆算した、投げるための捕り方、ステップの踏み方を教えた。

外野担当の屋鋪氏は、非常に理論を大切にする。印象的だったのは、ボールは正面で捕れとよく言われるが、ボールの飛んでくる方向に対し、正対して体を入れるのが正面で捕るということではない。正しくは顔と胸の前でキャッチすれば横向きでも正面である、そのほうが捕りやすいはずだと説明した。

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バッテリー担当の阿波野氏と大矢明彦氏は、それぞれピッチャーとキャッチャーへの指導法について話をした。

大矢氏はワンバウンドを捕る時には「顔を背けない、よけると胸も上がってしまい後逸の危険性が高まる。顔は下を向くべし」と解説。このような技術論もさることながら、捕手の良し悪しは「ジャッジ」にこそあると述べ、表立って見えにくいものだから、好判断をした時にはキチンと褒めてあげてほしい、と訴えた。捕手は元気が一番。大きな声でしっかりしゃべり、挨拶ができることも重要だと加えた。

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「投球の際、トップ時のグラブをはめた手は、人差し指と親指の角度を4時10分くらいに。壁ができたらグラブの腕は、わきの下でたたんでも下ろしてもどちらでもよい」。そう投球動作を端的に表現したのは阿波野氏だ。質問コーナーでは阿波野氏の代名詞でもあったヒールアップを子供にはやめさせるべきか、ということを問う受講者に対し、阿波野氏は「自分は体が小さかったので助走の感覚でヒールアップをやっていた。いったん離れた踵が同じ位置につき、なおかつコントロールが悪くなければやめさせる必要はない」と、さすがの回答をした。

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その後のバッティング指導は、講師が1人ずつ四カ所に分かれ、受講者自身によるロングティー。私は水上氏のところにまじった。水上氏はトスを笑顔で上げながら、たとえ受講者が空振りをしても「大丈夫、大丈夫」とやさしく声をかける。2、3球の打ち方を見てから「ここをこうしてごらん」とアドバイスする。するとさすがプロの指摘。明らかに打球の質が上がる。1人あたり6、7球。ほぼ全員がマンツーマン指導を受けた。

大人も学びたいプロの技術

このように、ほぼ全行程で時間をオーバーするほど元プロの講師陣による指導は熱がこもっていた。最後の挨拶では皆、口をそろえて「指導者への指導は初めてに近い。勉強になった」と語り、阿波野氏は「非常に熱意を感じた。また、よりいいものを勉強して持ってきたい」と締めくくり、盛況のうちに野球教室は幕を閉じた。

元プロとはいえ主に80年代のプレーヤーの方々。しかしさすが身体の動きは一般の方よりも若い。身体能力ではなく理論的な土台と長い間培ってきた型のようなものがあるからこそ、このような動きができることを実感した。

プロ野球OBが少年に向けて野球教室を開催することは多いが、今回のように、指導者や一般の大人に対し一流の技術を伝える場がもっとあってよいと思った。やはり書籍や映像で見るよりも、目の前での実技には惚れぼれとするほどの美しさがある。簡単な返球やステップの見本でも、理論に基づいた動きには無駄がなく、見る者を圧倒する迫力すら感じる。三井ゴールデン・グラブ野球教室は今回1回目。このような高レベルの技術伝道の場が今後毎年開催され、波及していくことを切に願う。

(日経BP企画・雨宮健人)
2010年4月20日